《蝉が一匹、力無くジーと啼いた》

そもそも友だちの雅美さんから「気味の悪い手紙が父宛に届いた」と相談されたのがきっかけだったんです。雅美さんと手紙に書かれた所へ行くと、なんと頭が真っ黒焦げの死体を発見。更に、父静馬氏が雅美さんに「落とし前をつける」とメールに残し行方不明に。ここから私たちは静馬氏の行方を捜すことになります。その中で、26年前に起きた祖父重蔵氏の愛人“紀子”にまつわる事件と深い関わりがあることを突き止めます。26年前に一体何が?

12 夢

「なんだお前は?」
 名乗ってもピンとこないようだった。だからあの時の話をしてやった。すると、真っ黒焦げの顔はまさかこの俺が目の前にいるとは想像できなかったらしく激しく動揺する仕草を見せたが、すぐ我に返り大きくため息をついた。
「なんだ、今更ノコノコと、何の用だっ」
 顔は苛立たしげに言葉を吐き、細かく貧乏揺すりを始めた。
 茂みで鈴虫たちが大合唱をしている中、蝉が一匹だけ力無くジーと啼いた。
 顔はふとそちらの方に気をそらせた。ちょうど良い具合に顔が後ろを向いた。今だと思った。石で頭を思いっきり殴った。ビーンとのけぞり膝からガクッと落ちた。次に腰、肩の順でペタンペタンと畳まれるように崩れていった。正座してひれ伏すような格好になった。血がこちらに飛沫しないように持ってきた新聞紙を広げて肩から上に被せ、もう一度同じ所を目見当で殴った。衝撃で背中がビクンと飛び跳ね両腕がビクビクッと痙攣したが、やがて止まり動かなくなった。
 勝った。俺はとうとう勝ったんだ!うお~!
 叫んだ自分の声に驚いて、ぐわっと上半身を起こした。夢か。酷く汗を掻いている。窓の外を見た。湿度の高い空気によって膨らみおぼろに照らす月が光を部屋へ注いでいた。光は青白く、部屋全体をあたかも水槽であるように水の中に沈めていた。喉の渇きと息苦しさを覚えバスルームへ行った。水を一息に飲み干し汗を拭った。不思議と手は震えていなかった。鏡を見た。そこにはこの世の者と思えぬ忿怒の顔があった。それが自分であることに己ながら驚いた。